神戸地方裁判所 平成3年(ワ)782号 判決 1995年3月28日
原告
高原脩
外二七名
右原告ら訴訟代理人弁護士
松重君予
同
岡田要太郎
同
岡本日出子
同
梶原高明
同
木村治子
同
小林広夫
同
後藤玲子
同
長久一三
同
中村留美
同
野田底吾
同
羽柴修
同
正木靖子
同
増田正幸
同
宮内俊江
同
山内康雄
同
山崎省吾
右原告ら中、高原脩・高橋紘一郎・嵯峨根徹・丹澤靖義・黒田かつよ
小森信光・麻生近子を除く原告ら訴訟代理人弁護士
松本隆行
被告
日本電信電話株式会社
右代表者代表取締役
児島仁
右訴訟代理人弁護士
高野裕士
主文
一 別紙債権目録記載の各原告のうち原告松谷敏道を除く原告らの被告に対する同目録債権金額欄記載の各債務がそれぞれ存在しないことを確認する。
二 原告松谷敏道の被告に対する平成三年一〇月二七日から同月二八日までの通話期間(平成三年一一月分)に対するダイヤルQ2通話料債務は、回線使用料に当たる金二万五八五〇円を超えては存在しないことを確認する。
三 被告は、原告高原脩に対し金四万〇七六九円、同嵯峨根徹に対し金三三万四八五五円、同麻生近子に対し金八万六四一九円、同丹澤靖義に対し金二〇万四六三四円、同黒田かつよに対し金一七万一〇八〇円、同小森信光に対し金六万一三六九円及びこれらに対する平成三年六月九日から支払済みまで年五分の割合による金員、同佐原肇に対し金五〇万〇九〇六円、同島村美津子に対し金八二三〇円、同亀井芳美に対し金三六万三五九八円、同和田悦男に対し金一二二〇円、同吉田稔に対し金六万一六四九円及びこれらに対する平成三年七月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員、同苅田勇吉に対し金一五万八五〇四円、同沢野輝彦に対し金四一万二五一〇円及びこれらに対する平成四年一月九日から支払済みまで年五分の割合による金員、同竹島正明に対し金七〇万九二二九円、同伊藤博幸に対し金一万八三二〇円、同藤岡強に対し金二五七〇円、同近藤道子に対し金二一万五六九〇円及びこれらに対する平成四年三月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告小柳和子、同冨田美千代の各請求及び原告松谷敏道、同島村美津子、同和田悦男、同伊藤博幸、同藤岡強、同近藤道子のその余の各請求をいずれも棄却する。
五 訴訟費用は、これを五〇分し、その一を原告小柳和子、同冨田美千代の負担とし、その余を被告の負担とする。
六 この判決は第三項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 請求(以下、原告名については姓のみをもって表示する。ただし、原告近藤道子については近藤(道)と、同近藤春穂については近藤(春)と表示する。)
一 原告小柳及び同冨田以外の各原告関係
1 別紙債権目録記載の各原告の被告に対する同目録債権金額欄記載の各債務はそれぞれ存在しないことを確認する(原告松谷を除く各原告については主文第一項と同旨)。
2 被告は、別紙請求金目録記載の各原告に対し、同目録請求金額欄記載の各金員及びこれらに対する本件各訴状送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え(原告島村、同和田、同伊藤、同藤岡、同近藤を除く各原告については主文第二項と同旨)。
二 原告小柳及び同冨田関係
被告は、原告小柳及び同冨田に対し、各金一五万円及び平成三年九月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、原告小柳及び同冨田以外の各原告が、いわゆるダイヤルQ2の利用にかかるダイヤル通話料金につき、自身が利用したものではないので支払う義務はないとして、別紙債権目録記載の各ダイヤルQ2通話料債務の不存在確認を求めるとともに、別紙請求金目録記載の各原告については、ダイヤルQ2の利用にかかる既に支払済みのダイヤル通話料金は、被告の不当利得に当たるとしてその返還を求め、原告小柳及び同冨田については、同原告らが利用していないダイヤル通話料金について被告から不当な請求を受けたことにより財産的、精神的損害を被ったとしてその損害賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実
1 被告は、NTTの通称で、国内電気通信事業及びそれに付帯する業務等を行う株式会社であり、原告らは、いずれも被告との間で加入電話契約を締結している者である。
2 被告は、原告らに対し、別紙ダイヤル通話料金一覧表(以下、「一覧表」という。)1及び2の「ダイヤル通話料としての請求内容」欄記載の各金額のダイヤル通話料の支払をそれぞれ請求した。そして、右ダイヤル通話料のうち、一覧表1及び2の支払済料金欄記載の金額がそれぞれ銀行の自動引き落とし等により被告に支払われた(ただし、原告高原の平成三年三月分の支払については争いがある。)。
右ダイヤル通話料の中には、通常の通話料(以下「Q2外通話料」という。)とダイヤルQ2(以下「Q2」という。)サービスの利用に伴う通話料(以下「Q2通話料」という。)が含まれ、その各内訳は一覧表1及び2のQ2外通話料欄及びQ2通話料欄記載のとおりである。Q2通話料中には、被告の電話設備の利用に伴う費用(以下「回線使用料」という。)と、情報提供業者(以下「業者」という。)に支払われるべきQ2の情報提供の対価である情報料が含まれている。
また、被告は、本件訴訟において、Q2通話料からQ2通話料既払額を控除した残額(一覧表1中Q2通話料残額欄記載の各金額、及び別紙債権目録の債権金額欄記載の各金額。以下「未払金」という。)について、本来、原告らに対して、請求することができるものではあるが、このうち情報料部分については、請求権がある旨の主張はしないとしている。
3 ちなみに、Q2サービスとは、被告の電話サービス契約約款(以下「約款」という。)上、有料情報サービスといわれているもので、業者が被告から「〇九九〇」で始まる一〇桁の電話番号を与えられ、利用者がその番号に架電することによって、業者から電話による情報の提供を受け、被告は、利用者から回線使用料とともに、情報料も代行回収し、業者から一定額(月額一万七〇〇〇円程度)と情報料収入の九パーセントを代行回収の手数料として収受するシステムであり、被告から業者への情報料の支払は、業者からの格別の請求手続も経ずに、単純に情報料度数に基づき、一括して自動的に行われている。
そして、本件訴訟において争われているQ2サービスの利用がされた当時においては、わが国では、Q2サービス利用のための事前の申込みお登録等の手続は一切不要であり、一般の加入電話や公衆電話から、誰でもQ2が利用できる状態になっていた。また、Q2の情報の内容は、いわゆるアダルト番組から株式情報やプロ野球の結果のニュース等まで様々であり、何人もの人が一度に話ができるパーティーラインなども含まれている。
被告は、平成元年五月三〇日に郵政大臣に日本電信電話株式会社法(以下「法」という。)一条二項に規定された「付帯する業務」としてQ2の業務の届け出をした上、同年六月一日、Q2に関する約款一六二条ないし一六四条を認可を得ることなく追加して、同年七月に東京でサービスの提供を開始し、平成二年七月から全国的にサービスを拡大した。なお、約款一六二条は、「有料情報サービスの利用者(その利用が加入電話等からの場合はその加入電話等の契約者とします。)は、有料情報サービスの提供者に支払う当該サービスの料金等を、当社(被告)がその情報提供者に代わって回収することを承諾していただきます。」と規定しており、約款一六三条には、情報料について、ダイヤル通話料に含めて料金月ごとに集計の上加入者に請求する旨が定められている。また、約款一一八条においては、一般の通話料につき、加入者が知らない間に第三者が電話を利用した場合でも、加入者が被告に通話料を支払わなければならない旨が規定されている。
4 原告らは、業者との間で、直接、有料情報提供サービス契約(以下「情報提供契約」という。)を締結したことはない。なお、原告苅田、同松谷、同伊藤を除く原告らについては、家族の誰かが、同原告らの加入電話により、一覧表1及び2記載のQ2通話料におおむね対応するQ2サービスの利用をしていた。
5 被告は、原告小柳に対し平成三年四月分として一万七六三〇円、同冨田に対し平成三年四月分として一三万九二八〇円、同年五月分として四万〇九四〇円のダイヤル通話料(その大部分はQ2通話料)を請求したが、実際は、同原告らによるとされたQ2の利用は、同原告らと同じマンションに住む被告職員の犯罪行為によるものであったことが判明した。同原告らは、平成三年七月一五日受付の訴状をもって債務不存在確認訴訟を提起したが、被告は、その後、右各ダイヤル通話料については同原告らに支払義務がないことを認め、右各債務の不存在につき訴訟上の認諾をしたことから、同原告らは、訴えを現在の損害賠償請求に変更した。
二 原告らの主張
1 Q2システムの不当性
(一) Q2の情報内容
Q2で流される情報の種類には、ニュース、英会話等もあるが、多くは、女性のあえぎ声が流れるアダルト番組、同時に多数人で会話ができるパーティーライン、自宅にいながらテレホンクラブまがいの利用ができるツーショットなどで占められ、その割合は、平成三年三月末現在、全国で約八二〇〇のQ2番組中の五割以上となっている。なお、ツーショットについては、青少年の非行につながる恐れがあるとの非難を受けて、被告は、同年六月にその情報提供を打ち切る方針を打ち出している。
(二) Q2業務導入に際しての違法性
法一条二項に規定された「付帯する業務」においては、もともと、加入者に対し、何の新たな契約締結もなく、過大な負担を課するQ2のような業務は予定されていなかったにもかかわらず、被告は、「付帯する業務」が郵政大臣の認可事項から除外されていることを利用して、独自の判断により、Q2を「付帯する業務」に当たると解釈し、郵政大臣への届け出のみでQ2業務を開始したものであり、さらに、被告は、Q2は、約款一条二項の「付随サービス」に当たるとして、新たな認可を得ることなく、約款一六二条ないし一六四条を追加したものであるから、被告によるQ2業務は、違法な無認可業務に当たると解するべきである。また、被告は、Q2を導入するに当たり、当時アメリカにおいて、同種のサービスが種々の社会問題を起こしていたことを調査により知っていたにもかかわらず、事前に綿密な検討を加えることなく、安易にQ2を導入したものである。
さらに、約款一六二条ないし一六四条の追加の告知方法についても、被告は店頭掲示も十分にしておらず、新聞等への掲載も行っていない。したがって、Q2及び右追加条項の「創設」を知っていた加入者は、ごく稀であった。
(三) Q2の社会的悪影響
Q2は、情報の内容について、被告が責任を取らないため、アダルト番組等の社会的に不健全とされる情報がこれによって提供され、猥褻なアダルト番組による青少年への悪影響、未成年者の長時間利用に基づく高額料金請求による家庭破壊等の深刻な社会問題を引き起こしている。
(1) 高額な利用料金
神戸弁護士会が解説した「ダイヤルQ2被害一一〇番」によれば、番組内容が判明した一九パーセントのうち、パーティーラインが一四ケースあり、一ケース当たり、平均47.6万円(一ヵ月当たり約15.5万円)という、一般家庭の毎月の通話料からは想像もできない高額な料金を、利用者は被告から請求されている。仮に右金額を支払わなければならないとすれば、一般家庭では、家計が圧迫され、生活が破壊されることが明らかである上、アダルト番組等には、高額な料金に見合う情報価値はない。
(2) 青少年に与える悪影響
Q2のアダルト番組等には、社会的相当性を逸脱した卑猥な性的好奇心をそそるものが多く、青少年が家庭で無条件で利用できる現状の利用形態では、家庭内でポルノ雑誌を青少年に自由に販売しているに等しい。また、Q2は、業者の違法行為を助長し、青少年が犯罪の被害者となるという弊害をも生み出している。
(四) Q2のシステム上の問題点
(1) 加入者のQ2に対する認識の欠如等
申込制を採らない現行のQ2システムでは、加入者の大部分は、Q2の仕組みどころかその存在さえ知らされておらず、同居人等が加入者に無断、かつ容易に利用することも可能なため、加入者が、自らは利用していない高額な料金を、突然に請求されるというケースが多発している。
(2) 料金など取引条件の説明不足
Q2の情報料には、多くのランクがあり、3.5秒当たり一〇円という最高額の料金は、アメリカに国際電話をする際の通話料金に匹敵する高額さであるが、現行のQ2システムでは、利用者に対し、高額かつ複雑なQ2の情報料と回線使用料についての説明が十分になされていない(ちなみに、Q2に架電した時のガイダンスは、「△秒当たり一〇円の料金がかかります。」という一〇円当たりの合成秒数の告知があるに過ぎない。)。また、Q2の通話を終えた際にも、料金の告知はなされず、毎月の電話料金請求書においても、Q2利用の有無、情報料、回線資料料の金額明細は示されない。
(3) 過剰な信用供与の可能性
現行のQ2システムにおいては、被告は、Q2で利用者に業者からの情報提供サービスを先取りさせ、対価を後払いさせる一種の信用供与の機能を果しており、この仕組みでは、消費者の支払能力を超える過剰な信用供与が行われる恐れがあるにもかかわらず、利用限度を設ける等の措置が執られていないため、消費者の支払能力を超える過大な料金が請求されている。
(4) 強硬な取立方法
Q2の料金請求に関して、被告は、料金を支払うか、電話を止めるかの二者択一を強硬に迫ることが多く、被告によるQ2情報料の回収代行制度がこのような強引かつ悪質な取立を可能にしている。
(五) 情報料回収代行業務の違法性(弁護士法違反)
弁護士法七二条は、(1)弁護士でない者が、(2)法律事件に関する法律事務を取り扱うか、又は法律事件に関する法律事務の取扱を周旋するに当たり、(3)報酬を得る目的で、(4)業としてなされる場合を要件として、弁護士でない者が、法律事務等を扱うことを禁止している。
ところが、Q2システムでは、被告は、情報料の回収代行を行い、そこから手数料を控除して業者に支払う仕組みであり、右(1)(3)(4)の要件を満たす上、Q2の債権内容は、トラブル発生の要因を多く含むものであって、それ自体争訟性をはらんでおり、また、回収代行の実際の手続においても、支払の督促や取立を行い、和解契約をなし、公正証書作成、支払命令申立、訴え提起等をも行っており、これらは、法律事件に関して法律事務を行うことに当たるから、被告の情報料回収代行サービスは、右(2)の要件も満たし、弁護士法七二条に違反している。
なお、本件においても、被告による強硬な催促の結果、原告島村及び同沢野はそれぞれ債務承認の公正証書や弁済契約書を作成し、原告吉田は電信電話料金分割払願を提出しているところ、被告は、右原告らとの間で和解、追認が成立したとして、右和解等に基づき、Q2通話料の請求を行っているが、これらの和解は、右のとおり弁護士法七二条に違反しているから、無効というべきである。
2 原告らに対するQ2通話料請求の不当性
原告苅田、同松谷、同伊藤は、家族も含め一切Q2サービスを利用したことがなく、また、右各原告を除く原告らについても加入者である同原告ら自身は、Q2サービスを利用したことがないのであるから、被告による原告らに対するQ2通話料の請求は不当なものというべきである。
(一) 従来の電話サービス契約の当事者は被告と加入者の二者であり、加入者の同居人等は、契約上は第三者であるが、日常生活における通常の使用の範囲において、加入者から電話の使用を許されている者と考えられてきた。しかし、Q2は、従来の電話サービスとは、契約形態、通話内容、料金体系とも大きく異なっており、同居人等によるQ2利用を従来の電話サービスと同様に「日常生活における通常の使用の範囲において、加入者から電話の利用を許されている」ものとみることは到底できない。Q2のような営利事業で、利用者と加入者を同一視することは許されないし、電話を占有管理しているから、Q2の利用にまで責任を負わなければならないとすれば、Q2の存在を知らない者にまで責任を負わせることになり、著しく不合理であるし、加入者が他人のQ2サービスの利用まで承諾しているとみなすのは、社会的実態にもそぐわない。
さらに、被告と業者間のダイヤルQ2に関する契約(以下「Q2契約」という。)一五条には、加入者が被告からの情報料の請求に応じない場合は、被告は業者に情報料を支払わない旨の規定があり、被告において、情報料の回収がないにもかかわらず、業者にこれを支払うべき根拠はそもそも存在しない。それにもかかわらず、被告が情報料を業者に支払っているとすれば、それは、被告のコントロールシステムでは、Q2通話における発信者を確認できないため、いちいち利用者の支払意思の確認をすることができず、そのために、期限を定めて自動的に情報料を業者に支払わざるを得ないという、回収・支払システムに欠陥があるからであり、本来、被告には、請求に応じない加入者に対し情報料の回収を代行する権限はないというべきである。
(二) 約款一六二条ないし一六四条の拘束力について
(1) 内容の不適正
普通契約約款の個別条項が拘束力を持つためには、内容の適正が必要とされるが、約款一六二条ないし一六四条には、①公平性の原則が確保されていない、②文言上も解釈上も明確性の原則が確保されていない、③加入者が情報提供契約の当事者でない場合に、何故に加入者が約款の条項に登場するのかについて、何らの法的解明も整備もなされていない、④民法の基本原則である「契約は当事者間を拘束する。」との契約法理から著しくかけ離れている、といった問題点があり、内容の適正を欠く。
(2) 創設手続上の問題点
① 無認可
前記のようなQ2業務の実態に照らせば、そもそも、Q2業務は、法一条二項の「付帯する業務」に当たらないから、これを営むには郵政大臣の認可が必要であり、また、Q2が約款一条二項の「付随サービス」に当たるということも到底できず、さらに、電気通信事業法(以下「事業法」という。)三一条一項は、電気通信役務に関する料金その他の提供条件についての約款の変更には、郵政大臣の認可を要するものと定めており、Q2における料金システムは、加入者から見て、従来の料金算出方法の実質的な変更であるから、約款一六二条ないし一六四条の追加(約款の変更)に際しても、郵政大臣の認可が必要であったというべきであるところ、被告は何らの認可を得ていない。
② 制度的保障及び推定意思の不存在
普通契約約款の拘束力が認められるためには、①約款作成に当たり、消費者の意向が反映するような制度的保障があること、②消費者が、当該条項を契約内容とする意思を有すると推定するに足りる状況が存在することが必要であるところ、約款一六二条ないし一六四条は、前記のとおり、公正な第三者機関等に対する諮問等はもちろん、行政官庁による認可すら受けていないから、何らの制度的保障も存在せず、また、約款内容の十分な開示がなされておらず、その内容自体も被告の回収代行を一方的に加入者に承諾させるという非慣行的な規定であり、消費者にとって不意打ちになるような負担を課するものであるから、消費者が当該条項を契約内容とする意思を有すると推定するに足りる状況が存在しているとも到底いえず、手続上の最低限の適正要件すら満たしていないというべきである。
(3) 被告は、約款一六二条により、原告らから情報料回収についての委託を受けている旨主張するが、そもそも一六二条は、文言上、被告が業者に代わって、情報料の回収をすることの承諾を、原告らに求める内容であり、右文言が、加入者からの「支払委託」を意味するものと解することは、文言上からも不可能である。
(三) 回線使用料についての約款一一八条の不適用
被告は、Q2通話料について、回線使用料と情報料を分離し、回線使用料については、Q2外通話料と同じく、約款一一八条により、加入者に支払義務がある旨主張する。しかし、回線使用料は、以下に述べるように、情報料と不可分一体のものであり、情報料の成立及び有効性に法的運命を左右される付随的な債権であるから、Q2外通話料と異なり、約款一一八条を適用すべきではない。
(1) Q2における「通信」と「情報提供」の一体性
業者にとっては、被告が料金の回収代行をしてくれれば、確実かつ簡易迅速に情報料の回収ができ、他方、被告も電話回線の有効利用ができるというメリットがあることから、現行のQ2サービスが開始されたものであり、被告が業者に対して有料情報指定回線を付与し、かつ、自社の機器で情報料を測定し、情報契約当事者である業者に代わって継続的に情報料を利用者から取り立てていることに照らせば、被告は、本来の電気通信事業者としての役割を越えて、情報提供産業に実質的事業主体として関与し、それまで別個なものであった電気通信事業と情報提供産業を結合させ、機構上の一体性を持たせたというべきであり、Q2通話料において、回線使用料と情報料を分離することは許されない。
ちなみに、本件訴訟提起時においては、回線使用料と情報料は区別されることなくQ2通話料として、渾然一体として原告らに請求されており、また、一部については、被告は現在でも回線使用料と情報料に分計すらできないことを認めている。
(2) 被告と業者の経済的一体性
現行のQ2を利用した情報提供は、被告が料金回収代行サービスを開始しなければ、経費、スタッフ等の面から、本来、事業として成立たず、参入し得なかったであろう事業によるものがほとんどである。また、現行のシステムによれば、被告は、一番組ごとに一ヶ月当たり定額の一万七〇〇〇円と情報料の九パーセントを手数料として得られる上、別途回線使用料を取得できるのであるから、経済的に見た場合、被告と業者は共同収益事業を行っているものといえる。そして、右共同収益事業によって提供されているQ2番組は、情報と電話サービスが一体となった商品であり、被告が得る収益も情報料と通話料が渾然一体となったものである。
(3) 利用者側の理解
現行のQ2は、その冒頭のガイダンスにおいても、通話料と情報料とを分別した説明はなされず、合計秒数による料金の説明があるだけであるし、もちろん、利用者と業者間で契約書面を取り交わすこともない。したがって、利用者の大部分には、被告と業者という別個の主体から別々にサービスを受けているという認識はなく、一つのサービスを受けているという理解しかない。
(4) 情報料(その基礎となる情報提供契約)と通話料の法的一体性
社会、経済上からみて「情報提供」と「通話」が不可分一体となってQ2サービスが提供されている実態に照らせば、通話料は、情報料債権の成立及び有効性に法的運命を左右される付随的な債権であるというべきであり、そう解しなければ、信義則にも反することになるところ、電気通信の公共性、公益性に配慮した約款一一八条が、電気通信を利用した純粋の営利事業であるQ2に適用されず、原告らが被告に対し、情報料の支払義務を負わない場合には、それと一体性を有する通話料(回線使用料)も、信義則に基づき、不成立または消滅するのが当然であるというべきである。
3 情報料についての債務不存在確認の訴えの利益
確認の利益は、原告らの権利又は法律的地位に現存する不安や危険を除去するために、確認判決によってその権利関係の存否を確認することが必要かつ適切である場合に認められるべきところ、債務不存在確認訴訟の場合、仮に被告が情報料債権の不存在について、訴訟上争わない旨を明確にしたとしても、被告は、本件訴訟においても、本来は情報料の回収代行権限がある旨の主張を、依然として維持しているのであり、原告らの法律上の地位の不安定が除去されたということはできない。また、そもそも、通話料と情報料は不可分一体のものであり、情報料を請求しないということは、不可分のQ2通話料を減額するという意味しかもたない。
なお、原告高原について、被告は、平成三年三月分のQ2通話料一九万三一八九円を所料済みである旨主張するが、右金額は、但陽信用金庫香呂支店が、同原告の支払拒絶通知にもかかわらず、手違いにより、自動引き落としをしたものであり、同信用金庫は右金員を同原告に返還しているのであるから、同原告が右金員を被告に支払ったことにはならない。したがって、同原告は、依然として、被告に対し、右金額につき、Q2通話料の債務不存在確認を求める利益がある。
4 支払済のQ2通話料の不当利得性
前記2のとおり、本来、被告が原告らに対し、Q2通話料を請求することは許されないのであるから、別紙請求金目録記載の各原告については、既に支払済みのQ2通話料は被告の不当利得に当たる。そして、次に述べるとおり、被告は、悪意の受益者に当たり、利益は現存しているので、同原告らに対し、別紙請求金目録記載の金員に利息を付して返還する義務がある。
(一) 被告の悪意
被告は、原告らに対し、Q2通話料債権を有しないことを承知の上で、原告らにこれを請求し、受領したものであり、悪意の受益者である。仮に、そうでないとしても、被告は多少とも法的な検討を加えれば、原告らに対し、右債権を請求し得ないことが分かったにもかかわらず、あえてこれを請求、受領したのであるから、少なくとも重大な過失があったものであり、悪意の受益者と同様に扱われるべきである。
(二) 被告における不当利得の現存
情報料については、本来、原告らが情報料債務を負担するのではなく、実際の利用者が業者に対して右債務を負担しているものであるから、被告が、債務を負担しない原告らから情報料を回収して業者に支払ったとしても、それは、法律上の原因なくして業者に支払ったものであって、被告が業者に対して、同額の不当利得返還請求権を有することになり、仮に、右弁済が第三者弁済として有効となるのであれば、被告は、実際の利用者に対して求償権を取得することになるのであるから、いずれにしても、被告に利益は現存するというべきである。
なお、被告は回線使用料を自己のものとして現に利得しているところ、Q2通話料のうち回線使用料を分計することができないものについては、被告の自認するとおり、各原告ごとに情報料の特定も業者の特定もできないのであるから、情報料の業者への支払の事実を具体的に証明することは不可能であり、また、情報料と回線使用料を分計できるものについても、被告は、業者及び情報料を特定して、支払った事実を立証すべきであるのにこれをしておらず、被告が立証を尽くしたとはいえない。
5 未成年者の親権者ないし電話管理者としての責任の主張について
被告によるQ2通話料の請求は、契約関係に基づく料金債務自体の履行を求めるものであって、債務不履行、不法行為等による損害賠償を求めるものではないから、未成年者の親権者ないし電話管理者としての原告らの責任をいう被告の主張は失当である。
ちなみに、原告らは、実際のQ2利用者に対して、Q2利用に関する承諾等を与えたことは一切ない。原告らは、そもそも、Q2の存在自体を知らず、まして一般家庭内の電話から、Q2に接続できることや、加入者が高額な料金を請求されることは、全く知らなかった。また、Q2の利用は、本質的に、管理監督が困難なものであり、その利用制限等を周知する手だてを何ら取っていない被告が、一般家庭でQ2の利用を監督できると主張することは許されないというべきである。
6 原告小柳及び同冨田の損害賠償請求について
右各原告は、Q2を利用した事実がないので、被告に対して配線操作の可能性について調査してほしいと申し入れたが、被告は、十分な調査をすることなく、「配線に異常はない、右各原告が使っていないとしても、使った犯人が分からない以上は支払義務があり、支払わなければ通話停止をすることもある。」などと言って、あくまで支払を求めた。右各原告は、突然の多額の通話料請求に驚き、不当な請求に対処するため、勤務を休んで被告と交渉をし、西宮消費者センターに苦情を申し立てたり、弁護士会に相談に出向いたりしたが、被告から納得の行く対応がなされなかったので、右請求につきやむを得ず平成三年七月一五日受付の訴状をもって債務不存在確認を求める訴えを提起せざる得なかった。
右各原告は、それぞれ、弁護士に委任するための着手金や費用を支払い、勤務を休み、時間を費やし、交通費等の費用を出捐し、それぞれ合計五万円以上の損害を被った。また、右各原告は、多大の不安と煩わしさ等の精神的損害を被ったがこれを金銭に評価すれば各一〇万円に相当する。
三 被告の主張
1 債務不存在確認の訴えの利益の不存在
被告は、原告らの情報料不払の意思が明確なので、未払のQ2通話料については、情報料の請求をしていない。よって、右情報料部分については、原告らに債務不存在確認の訴えの利益はない。
また、Q2契約では、利用者からの苦情は業者が自ら責任をもって処理すべきことや、利用者の拒否によって回収できない場合には、情報料を業者に支払わないことなどが定められている。したがって、Q2契約の内容からも、情報料の権利義務関係は業者と利用者ないし加入電話契約者間に存在するのであって、情報料そのものは、被告の債権ではなく、業者の債権であるから、情報料債務の不存在確認を被告に求めることは失当である。
なお、原告らに対するQ2通話料については、当時のシステムの制約上(クロスバー交換機は、システム上、情報料と回線使用料の区別が不可能であり、また、DEX交換機は、本来は、情報料と回線使用料との区別は可能であるが、利用者のプライバシーへの配慮から、希望した利用者についてのみ記録することにしていた情報料と回線使用料とを区別した料金明細内訳の電磁記録も、料金回収の一ヶ月後に消去していた。)、回線使用料と情報料を区別することが、現在では不可能な部分が存在する(なお、遅くとも平成三年一二月以降は、すべてについて情報料と回線使用料を区別して表示できる。)。
そこで、情報料と回線使用料が区別できない部分については、回線使用料については最低値(深夜・早朝時間帯の区域内通話で四分毎に一〇円)を適用し、一方、情報料についてはその最高ランク(四分毎に四〇〇円)を適用しても、Q2通話料に占める回線使用料の割合は四一分の一を下らないから、被告は、Q2通話料の四一分の一を回線使用料とみなして、この部分のみを請求し、これを超える部分の請求はしないこととする。
右により、被告が本件訴訟においてその存在を主張し、請求するQ2利用料の情報料と回線使用料の内訳は、別紙ダイヤル通話料金一覧表2記載のとおりとなる。
なお、原告高原については、同原告が未払を主張する平成三年三月分のQ2通話料一九万三一八九円は、既に受領済みである。
2 Q2システムの実態
(一) 現在、Q2として利用されている番組の内容には、外国語ニュース、スポーツニュース、音楽等多くのものがあり、その中には、社会的に問題となっているアダルト番組と呼ばれるようなものも含まれるが、Q2サービス制度の目的及び内容の多くは、社会的必要性と有用性のあるものであり、一部にいわれているように、Q2サービスそのものが反社会的なものではない。
(二) 被告によるQ2システムの手続的相当性
(1) 法一条二項に規定する付帯業務とは「(国内電気通信事業における)本来の利用を増大する業務」と解すべきであり、Q2サービスが利用者と業者との間の通話について電話回線を使用させるものであることを考えれば、右は正に付帯業務に該当するので、被告は、郵政大臣に付帯業務としての届け出を行い、約款に一六二条ないし一六四条を追加して、Q2サービスを開始したものであり、右経緯には何ら不当な点はない。また、情報料回収代行サービスは、電話サービスそのものではなく、回収代行にすぎないのであるから、約款一条二項の付随サービスであるといわざるを得ないから、事業法三一条の認可を受ける必要はない。
(2) 右約款の変更については、被告はその旨を店頭に掲示するとともに、Q2サービスについては、全国紙に広告を掲載して、一般への周知に努めており、さらに、一般紙にも取り上げられて、原告らのQ2通話料債務の発生前に既にそのシステムは広く一般に知れ渡っていた。また、被告は、Q2サービスの濫用若しくは悪用が報道されるに至ったため、加入者がQ2サービスを利用出来ないように機械的に措置するいわゆる「ダイヤルQ2発信規制」の制度を平成二年一〇月三〇日から創設して、約款一六二条一項について、右制度に関する但書を追加するとともに、二項を新設しており、これについての加入者への告知は、全国の営業所等の被告の全事業所で店頭掲示をしたほか、報道機関に発表したことにより、主要日刊紙にも取り上げられた。よって、原告らが右措置を取るように被告に申し込めば、Q2に伴う債務は発生していなかったといえる。
(3) Q2サービスを利用する際には、「このサービスは、情報料と通話料を合わせ、○○秒ごとに一〇円の料金がかかります。」というようなガイダンスが流されている。右ガイダンスを聞きながら利用者がそのまま利用を継続した以上、業者と利用者との間で情報提供契約が成立したものと解さざるを得ず、これによって、情報料を業者に、回線使用料を被告に支払う義務が利用者に生ずるのは当然であり、Q2は、予め料金も予告され、金額自体も長距離電話の利用料金と大差がなく、通常の通話と質的な差異はないのであるから、情報の対価も回線使用料も正確に知り得ず、従来の回線利用からは予想しがたい多大の負担を加入者に課する恐れがあるとするのは失当である。問題なのは利用の仕方であり、異常に長時間あるいは繰り返して利用するために料金が嵩むだけであって、このような異常使用は、利用者側の責任に属するものというべきである。Q2は、社会的に有用なサービスであり、現に大多数の者は異議なく料金を支払っている。原告らのQ2通話料が多額にのぼるのは、その利用の仕方によるものである。
(4) なお、被告の情報料回収代行サービスは、被告が業者に代わって、回線使用料と併せて、通常の請求手続で情報料の回収代行を行っているにすぎず、また、その手数料(月額一万七〇〇〇円と情報料の九パーセント)は、情報提供番組ごとのデータの登録及び処理、利用者への通常の請求、回収に掛かる費用として、コストに見合った額を設定したのにすぎないから、弁護士法七二条にいう「法律事件に関する法律事務」にも、「報酬を得る目的」で行っていることにも当たらず、同法違反とはいえない。
3 Q2通話料請求の合理性
原告らは、電話加入者であり、その加入電話を利用したQ2通話料については、後述の法律関係に照らし、これを支払うのが当然である。なお、一覧表1及び2記載のQ2通話料に該当するQ2通話料は、いずれも原告自身又はその家族が行ったものと考えられ、仮に、原告らの了解なくしてQ2サービスが利用されたとしても、それは電話加入者である原告らの電話管理不行き届きによるものというべきである。
(一) Q2についての当事者間の法律関係
(1) 被告が所有する電話網を利用して、利用者に有償で情報を提供するという本件の基本となる契約は、売買に類似する無名契約であるが、これは、利用者が架電する際、「このサービスは、情報料と通話料を合わせ、○○秒ごとに約一〇円の料金がかかります。」というガイダンスが流れるにもかかわらず、利用者がこれを聞いて、電話を切らずにそのまま情報を受け取ることにより、利用者と業者との間に成立する有料情報提供契約である。右契約の特徴は、①被告の電話回線を利用すること、②通信の内容は通信の秘密から、被告もこれを知り得ないこと、③当事者を確定するには電話番号によるしかないため、加入電話は特定できても、利用者は特定できないこと、④業者と利用者は多数かつ分散しているため、情報料の請求も支払も個々に行うことができず、一定のシステムに従って、画一的集団的に行わざるを得ないこと、⑤右③及び④の事情から、加入電話からの架電の場合には、加入者に料金の請求をせざるを得ないこと、⑥電話回線の所有者である被告が情報料の回収について重要な役割を担わざるを得ないこと、などである。
(2) 被告と業者は、Q2契約を締結しているが、その内容は、①業者が被告に情報料の回収を委任し、被告がその回収代行を行うこと、②情報料は被告の機器で測定すること、③加入電話を通じて利用した情報料は、加入者に適用される料金月ごとに集計の上、回収すること、④通常の請求手続をしたにもかかわらず、加入者が料金支払に応ぜず、料金が回収できない場合には、被告は情報料を業者に支払わないこと、などである。なお、利用者については、Q2契約は「その利用が被告の提供する公衆電話以外からの場合は、その加入電話に係る被告との契約者をいう。」と定めて、Q2サービスの利用者が誰であれ、被告が加入者から情報料を受け取るものとしている。
(3) 被告と加入者間については、約款一六二条により、現実の利用者が加入者であろうと、家族構成員であろうと、第三者であろうと、加入者が情報料の支払義務者である旨が定められている。その理由は、電話の特性から、その利用を特定しうる手段は電話番号のみであって、実際の利用者の特定が困難であり、かつ、電話が加入者の占有管理下にあって、加入者がその使用について支配しているとともに、善管注意義務を負担することを前提として、電話の利用が成り立っているためである。
(4) 業者と加入者との間は、前記(2)及び(3)のような、業者と被告との間のQ2契約及び被告と加入者の間の約款によって、相互に結ばれている。しかし、加入電話の場合には、利用者の特定が困難であること、加入者と利用者との関係は内部で処理できること、及び約款一六二条の存在に照らせば、加入者以外の者がQ2を利用した場合でも、加入者が、業者に対して情報料債務を負担するという法律関係が生ずると解することには十分な合理性があるというべきである。
(5) 回線使用料は、被告が有する通信手段たる電話施設を利用することのみから発生する一種の施設使用料である。この施設使用料は、電話がいかように利用されても必ず発生するものであって、通信の内容及び目的とは全く別個独立のものである。そして、回線使用料は、約款一一八条により、利用者が加入者と異なる場合でも、加入者がその支払義務を負担していることは、明らかである。
(二) 著しい不公平の存在
Q2を利用するか否かは、利用者(加入者)側の事由であり、利用した以上は、料金を支払うのは当然であるほか、被告による回収代行は、業者のみならず利用者(加入者)の利益にもなっているのであって、被告が情報料の回収代行をすることを、利用者(加入者)に選択の余地なく、一方的に承諾させたとはいえない。また、加入者と利用者が異なる場合でも、回線使用料については、その管理下にある電話の利用料として、約款一一八条により、加入者が支払うのが当然であるのと同様に、電話を占有管理している者がその電話から架電、利用されたQ2サービスの情報料を支払うことは、管理責任を重視する立場からは、むしろ公平の原則に合致するというべきである。
ちなみに、被告は、Q2を加入者が利用出来ないように機械的に措置するいわゆる「ダイヤルQ2発信規制」の制度を平成二年一〇月三〇日から創設し、平成三年八月からは、ダイヤル通話料が前月より相当高額になった場合には、高額利用のお知らせを請求書発行前に電話等で知らせるサービスを順次導入し、平成六年三月からは、Q2番組をジャンル分けしてジャンル別利用規制を実施し、大人向け番組については同年九月一日からディジタル交換機収容の加入者からの申込制を採用する等、Q2システムの改善のための努力を継続している。
(三) 和解契約等による支払義務
Q2通話料に関し、被告と和解契約等を締結している一部原告については、その請求は、右和解契約ないし追認に基づき行うものである。
(1) 原告島村は、平成三年六月三日、被告から十分な説明を受けた上で、ダイヤル通話料金につき一切の支払義務があることを認め、被告との間で債務承認公正証書(乙一六)を交わした。
(2) 原告吉田は、平成三年五月一〇日、被告から十分な説明を受けた上で、ダイヤル通話料金につき一切の支払義務があることを認め、被告に対し、「電信電話料金分割支払願」(乙一七)を提出し、被告はこれを承諾した。
(3) 原告沢野は、平成三年三月二五日、被告から十分な説明を受けた上で、ダイヤル通話料金につき一切の支払義務があることを認め、債務承認弁済契約書(甲四〇の五)を被告と交わした。
4 支払済Q2通話料の不当利得返還請求について
(一) 原告らの一部は、支払済みのQ2通話料の返還を求めているが、前述のとおり、情報料については、被告は、原告から被告への支払は原告らの回収承諾に基づき、被告から業者への支払は業者の回収依頼に基づき、情報料回収行為を完了させたのであり、情報料回収代行者として、その支払を請求し、受領する法律上の理由があるのは当然であるから、右情報料の返還をしなければならない理由はない。
なお、情報料については、被告は債権者ではないのであるから、原告らが、もし情報提供契約について何らかの解除事由等があると考えるならば、業者に対して返還請求すべきである。
また、回線使用料については、約款一一八条に基づき、原告らは被告に対して支払義務を負うのであるから、被告はこれを返還する義務はない。
(二) 現存利益の不存在
被告から業者への情報料の支払については、情報料を各業者ごとに積算する機器が設置されて、利用者から業者に架電されるたびに、情報料が一〇円単位の度数で積算され、各月ごとにそれが読み取れるようになっており、この度数に一〇円を乗じた金額が翌々月の二五日までに支払われることになっている。したがって、被告は、利用者のQ2への架電後遅くとも三か月以内に、加入者の情報料支払の有無にかかわらず、業者へ情報料を支払っている。
5 原告小柳、同冨田の損害賠償請求について
被告は、右各原告への通話料の請求が被告従業員の不正使用であったことを認め、右各原告に対する通話料を訂正した。右各原告はそれを無視して、被告が請求しないことを明らかにした通話料について、その後にあえて債務不存在確認訴訟を提起したものであり、右事情に照らせば、被告には何らの不法行為も存在しないし、右各原告主張の損害と被告の対応の間には因果関係もない。
第三 当裁判所の判断
一 債務不存在確認訴訟の訴えの利益について
本件において、被告は、原告らに対し、未払の情報料についてはこれを請求しない旨主張するが、それは、被告と業者間のQ2契約においては、利用者(加入者)の情報料支払拒否があった場合には、被告は回収代行をしないものとされているところ、原告らが支払拒否の意思を明確にしているからであると考えられ、被告において、原告らの請求を認諾したものではなく、また、回収代行権限を一切放棄したものとも解し得ない。そして、現に被告は、支払済情報料の返還請求に対しては、情報料の回収代行権限の存在を主張して、その返還を拒絶しており、未払の情報料についても、本訴提起後も第一五回口頭弁論期日に至るまではその支払を請求していたのであるから、その後の未払情報料を請求しないとの対応によって、一切の紛争が消滅したものとたやすく認めることはできない。したがって、原告らには依然として、未払情報料につき債務不存在確認を求める訴えの利益があるというべきである。
また、被告は、回収代行権限があるとして、自己の名で現に原告らに情報料を請求し、受領していたのであるから、情報料が業者の債権であって、被告の債権ではないとして、被告適格を争うがごとき被告の主張は許されないというべきである。
なお、原告高原の平成三年一月二四日から同年二月二二日までのダイヤル通話料二一万三五〇八円(同年三月分)については、訴外但陽信用金庫の過誤により、同原告のロ座から引き落とされたが、その後同金庫が過誤を認めて同原告に右金員を返還している(甲三四号の七)のであるから、同原告が右支払の効果を否認している以上、右金員については、未だ被告に対する支払の効果は生じていないものとみるのが相当である。したがって、同原告には、右期間のQ2通話料の債務不存在確認を求める利益があるというべきである。
二 本件事実関係(原告小柳及び同冨田を除く原告ら関係)
1 電話の利用を特定しうる手段は電話番号のみであって、実際の利用者を特定するのは困難であるのに対し、加入電話は通常加入者の占有管理下にあるという電話の特性を考慮すれば、電話の利用者を認定する際には、特段の反証がない限り、加入者又はその明示若しくは黙示の承諾を受けた者が当該加入電話を利用したものと一応推認するのが相当であるが、原告らは、いずれも自らがQ2サービスを利用したことを否定し、第三者にQ2サービス利用の承諾を与えたこともない旨主張し、その旨の本人又は親族の各陳述を原告ら訴訟代理人において録取した書面(ただし、原告亀井については同原告作成の報告書)を提出する。
そして、右各陳述録取書の記載及び後記の各証拠並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告松谷を除く原告らについては、結局、右推認は履され、加入者である同原告ら自身がQ2サービスを利用したものと認めることはできず、同原告らの家族又は同居人が利用したものであることが窺われるものの、同原告らが家族又は同居人にQ2サービスの利用について明示又は黙示の承諾を与えていたものと認めることはできない(同原告らは、当時必ずしもQ2について十分な知識を有していたとは認めがたく、また、仮にQ2について十分な理解を有していたとすれば、家族にその利用を許すことはなかったものと推測される。)。
他方、原告松谷については、子供は当時一才で、本人も妻もQ2サービスを利用したことはない旨陳述するが(甲五一の一)、証拠(甲五一の二ないし四、乙七九ないし八二号証、同一一三号証)によれば、平成三年一〇月二七日の午後九時三〇分ころから翌二八日の午前一一時二〇分ころまでの間に、「投稿ダイヤルステーション」(内容は声の伝言サービスで架電時間2分2.5秒)及び「ワンワンクラブ」(内容はフリーダイヤルとの接続による二人の会話で架電時間13時間47分23.5秒)の二つのQ2番組に架電していることが認められ、その番組内容や利用時間に照らせば、同原告ないしその承諾を得た妻が架電して、その後切り忘れたものと推認するのが相当である。
2 ちなみに、原告松谷を除く原告らごとに記載した以下の各証拠によれば、同原告らの加入電話から一覧表1及び2記載のQ2通話料に対応するQ2サービスが利用されたことが認められるが、Q2に架電したのが加入者である同原告ら自身又はその承諾を得た者と認めがたいことは前記のとおりである〔なお、被告から請求されたダイヤル通話料としての請求内容、Q2外通話料、Q2通話料、基本料等、支払済料金、Q2通話料既払額(別紙請求金目録記載の各金額と同一)、Q2通話料残額(別紙債権目録記載の各金額と同一)の各金額が一覧表1記載のとおりであることは、前述の原告高原の支払額の一部を除き、当事者間に争いがない。〕。
① 高原
甲三四の一ないし五、乙一八、二九の一及び二、八七、九三、原告高原本人
② 高橋
甲四一の一ないし三、乙一九、三〇の一及び二、九五
③ 嵯峨根
甲四二の一ないし四、乙二〇、三一の一及び二、九三、九六
④ 丹澤
甲五九の一ないし三、乙九三、九九
⑤ 黒田
甲五二の一ないし六、乙二二、三一の一及び二、一〇〇
⑥ 小森
甲三六の一、乙二三、九三、一〇一
⑦ 麻生
甲五三の一ないし四、乙二一、九三、九八
⑧ 齋藤
甲三九の一及び二、乙一一二の一及び二
⑨ 竹島
甲六一の一及び二、乙九三
⑩ 伊藤
甲五六の一ないし四、乙九〇、九三、一一四、一一五
⑪ 藤岡
甲五七の一ないし五、乙九一、九三、一一六の一及び二、一一七
⑫ 近藤(道)
甲三八の一ないし三、乙九二、九三、一一八
⑬ 近藤(春)
甲四七、乙一〇七の一及び二
⑭ 藤原
甲四八、乙一〇八の一及び二
⑮ 苅田
甲五〇の一及び二、乙九三
⑯ 永見
甲四九の一ないし七、乙一〇九の一及び二
⑰ 梅岡
甲六〇の一及び二、乙一一〇
⑱ 沢野
甲四〇の一ないし四、乙九三、一一一、原告沢野本人
⑲ 佐原
甲四六、乙九三
⑳ 島村
甲五五の一ないし五、乙二四、三三の一及び二、八八
宮本
甲四三の一ないし四、乙二五、三四の一及び二、一〇三
亀井
甲三七の一、乙九三、一〇四
和田
甲五八の一及び二、乙二六、三五の一及び二、八九、九三
吉田
甲五四の一ないし四、乙二七、九三、一〇五
小寺
甲四五、乙一〇六
三 債務不存在確認請求について(原告佐原、同苅田、同竹島、同近藤(道)、同小柳、同冨田を除く原告ら関係)
1 情報料について(和解契約等のない原告島村、同吉田、同沢野を除く右原告ら関係)
(一) 原告らは、Q2がその情報内容、社会的悪影響、高額な料金等に照らし、それ自体、社会的相当性を欠くシステムである旨主張する。しかし、原告らの加入電話から利用されたQ2サービスのいずれもが公序良俗に反するような強度の弊害のある番組であったことを証明するに足りる証拠はなく、Q2番組の目的及び内容の中には、社会的必要性と有用性をもつものも存在することが認められ(乙四七、五四ないし六三)、また、Q2サービスの利用の際には、「このサービスは、情報料と通話料を合わせ、○○秒ごとに一〇円の料金がかかります。」というようなガイダンスが流され、予め料金の予告もされており(検証の結果)、その料金も長距離電話の利用料金と比較すれば、著しく高額であるとまでは一概にいえず、Q2について十分な認識を持つ利用者(加入者)が利用する限りにおいては、Q2システム自体が直ちに反社会的で公序良俗に反するものであるとまで即断することはできない。
また、仮に原告主張のように、被告におけるQ2業務の実施及び約款一六二条ないし一六四条の追加が法一条及び事業法三一条に違反する疑いがあるとしても、このような形式的違法性が、直ちに具体的なQ2サービスの利用にかかる契約関係の効力を左右するものと解するのは相当ではなく、このような場合には、約款等の有効性の判断に当たり、関係法規の立法趣旨を考慮して合理的な解釈を施すことにより、利用者(加入者)の利益保護を図るのが相当であると考える。
(二) また、原告らは、被告による情報料の回収代行について、その制度的不当性を主張する。しかし、Q2においては、被告主張のとおり、①被告の電話回線を利用すること、②通信の内容は通信の秘密から、被告もこれを知り得ないこと、③当事者を確定するには電話番号によるしかないため、加入電話は特定できても、利用者は特定できないこと、④業者と利用者は多数かつ分散しているため、情報料の請求も支払も個々に行うことができず、一定のシステムに従って、画一的集団的に行わざるを得ないこと、⑤以上の事情から、電話回線の所有者である被告が情報料の回収について重要な役割を担わざるを得ないことが、その特殊な事情として存在していることも明らかである。したがって、業者との関係ではQ2契約に基づき、加入者との関係では有効に成立した約款に基づき、被告が情報料の回収代行を行うこと自体は、これを直ちに違法と解することは相当でない。
なお、原告らは被告による情報料の回収代行が弁護士法七二条に違反すると主張するが、前記事情に照らしても、本件原告らに対する情報料の支払請求等が通常のダイヤル通話料の請求事務とは質的に異なり、同七二条にいう「報酬を得る目的」で「法律事件に関する法律事務」を行っているものに該当するとまで認めることはできない。
(三) そこで、次に約款一六二条の拘束力について検討するに、約款がその拘束力を持つためには、もとより、その約款の内容に妥当性があり、一般人がそれによる意思を有すると推定するに足りる状況が存在しなければならないが、さらに、一般に、約款による取引が一般大衆を相手方とする大量かつ定型的な取引であることから、法令(本件では事業法三一条、三二条)は、右妥当性を担保する機能を行政機関の認可に期待するとともに、公示をも求めているものと解される。また、認可の対象が料金その他の提供条件(同法三一条一項)であることに徴しても、約款の妥当性の判断は、その事業又はそれに付随するサービスが扱う料金の額にも及ぶものというべきである。
ところで、Q2サービスにおいては、前記のとおり、営利を目的とする業者にとっては、被告が料金の回収代行をしてくれれば、確実かつ簡易迅速に情報料を回収できるメリットがあり、他方、被告も電話回線の有効利用ができることから、被告自身が有料情報指定回線を業者に付与した上、自社の機器により情報料を測定して、情報契約当事者である業者に代わって継続的に情報料を利用者から取り立てているもので、その意味では、被告のQ2業務は、通常の通信業務に新たな情報提供業務を結合させたものというべきである。そして、業者によるQ2サービスの大部分は、基本的には営利を目的とするものであり、現に提供されているQ2サービスの多くのものが、提供される情報に対し、相当高額ないし容易に高額となりうる料金の支払を要するものとなっている(乙一、六、七)。他方、Q2及びその情報料の回収代行は、このような新たな性格を有する制度であるにもかかわらず、本件の各Q2サービス利用当時における被告のQ2及びこれに関する約款等の広報活動は、被告の主張、立証に照らしても必ずしも十分なものとはいいがたく、原告らもQ2及びこれに関する約款等の内容を十分認識していなかったことを強く主張、陳述しているところである。
本来、利用者以外の第三者に料金の支払義務を負担させることについては、例外的、謙抑的であるべきにもかかわらず、約款一一八条においては、電気通信事業(電話)の特殊性、公共性の観点から、このような第三者への料金支払義務の拡張が是認されているものと解される。そうだとすると、Q2サービスのような、基本的には営利を目的とするものがその大部分を占め、かつ、第三者による無断利用により、容易にその料金が著しく高額化する可能性のあるサービスについては、約款一六二条はその内容の妥当性を必ずしも保持し得ないものといわざるを得ず、十分な手続的保障の機会を欠いた状態の下で、Q2及びこれに関する約款等の内容を十分認識しているとは認めがたい加入者に対して、約款一六二条の拘束力を認めることは、一般市民の予測可能性を超えた著しく不条理な結果を招来することにもなるので、信義則上も相当でないというべきである。
被告は、平成二年一〇月三〇日から、Q2を利用できないように機械的に措置するいわゆる「ダイヤルQ2発信規制」の制度を創設し、平成三年八月からは、順次、ダイヤル通話料が前月と比較して相当高額になった場合には、高額利用がされていることを電話等で請求書発行前に知らせるサービスを導入し、平成六年三月からは、Q2番組をジャンル分けして、ジャンル別利用規制を実施し、大人向け番組については、同年九月一日からディジタル交換機収容の加入者について申込制を採用する等、Q2システムの改善のための努力を継続している旨主張しており、それ自体は評価すべきものではあるが、本件の各Q2サービス利用当時、原告らが、このような各種改善措置を含め、Q2サービス及びこれに関する約款等の内容を十分認識し又は容易に認識しえたと認めるに足りる証拠はない。
なお、被告は、仮に原告ら自身の了解なくしてQ2サービスが利用されたとしても、それは電話加入者であり、電話の占有管理者である原告らの電話管理不行き届きによるものというべきである旨主張するところ、確かに、後述のとおり、約款一一八条の合理性を理由付ける一つの要因として、このような電話の特殊性があることは否定しがたいが、公共性の要素に乏しいQ2サービスについて、右事情を直ちに勘案して約款の拘束力を認めることは、前記判示したところに照らしても相当とはいえず、かつ、本件における被告のQ2通話料の請求は、不法行為又は電話の管理義務の違背を理由とする損害賠償請求ではないことが明らかであるから、いずれにしても被告の右主張は採用しがたい。
2 回線使用料について(和解契約のない場合、前記1と同じ原告ら関係)
回線使用料は、利用者又は加入者が、被告の所有する電話施設を利用することによって、被告に対して負担することになる債務であるということができる。そして、右電話利用が加入電話からの場合には、約款一一八条が加入者から通話料を徴収する旨を定めているが、右規定は、電気通信事業の公共性、料金の発生の大量性、通常性及び事務処理の迅速性の要請に加えて、加入者は、自己の占有管理下にある電話の使用に対しては、通常、自らその使用料を負担する意思を有するものと推定されることに、その妥当性、合理的根拠を有するものというべきである。
ところで、Q2サービスは、前述のとおり、利用者が電話を通じて業者から情報を受け取ることを、その制度の本質的な内容としており、電話回線の利用がその情報提供制度の一環として不可分的に組み込まれているというべき側面を有しているものである。また、現に本訴提起当時においては、回線使用料と情報料との区別はもちろん、Q2外通話料とQ2通話料との区別もされることなく、渾然一体として原告らに請求されていたのであり(甲三四の二ないし四、三八の三、三九の二)、さらに、一部については、被告は現在でも回線使用料と情報料を分計することすらできないことを認めている。そして、平成三年五月に一斉にQ2通話料の分計を開始するまでは、料金明細登録希望を事前に出して置かない限り、Q2通話料の内訳が不明であるという状態が続いていたのであり、Q2架電の際の利用者への料金のガイダンスについても、回線使用料と情報料は区別されておらず(検証の結果、弁論の全趣旨)、また、被告から業者への情報料の支払も、業者からの格別の請求手続も経ずに、単純に情報料度数に基づき、一括して自動的に行われていたことは当事者間に争いがない。以上の事情に照らせば、本件で問題とされているQ2サービス利用時におけるQ2通話の回線使用料は、情報料と密接不可分に結びついており、一体として判断されるのが相当であるというべきである。
そうすると、本件で問題とされているQ2サービス利用時におけるQ2通話の回線使用料については、情報料と不可分一体の債権として、前記1における検討の結果が同様に当てはまるものといわざるを得ず、Q2外通話と同様に約款一一八条をそのまま適用することは、信義則上許されないものと解するのが相当である。
3 和解契約等がある場合について(原告島村、同吉田、同沢野関係)
被告主張のとおり、原告らのうち、原告島村については、被告との間で債務承認公正証が作成されており(甲五五の七及び八、乙一六)、原告吉田については、被告に電信電話料金分割払願を提出して、被告がこれを承諾しており(乙一七)、原告沢野については、被告との間で債務承認弁済契約書が交わされている(甲四〇の五、乙三六)ことがそれぞれ認められる。
しかし、以上の認定、説示に照らせば、右債務承認等は、右各原告が、被告に対して情報料及び回線使用料債務を実際には負担しないにもかかわらず、これを負担するものと誤信してなされたものというべきであり、右債務承認等に先立って、被告からQ2システムや代金回収代行制度、関係約款等について十分な説明がなされ、右各原告が複雑な法律関係を十分に理解したうえで債務承認をしたと認めるに足りる証拠はないから、その判断の基礎に重大な錯誤があるとともに、被告は、信義則上、右各原告に重大な過失があったと主張することは許されず、結局、右債務承認等は和解ないし追認としての効力を有しないものというべきである。
4 以上によれば、原告松谷を除く原告らについては、前述のとおり、同原告らないしその明示又は黙示の承諾を受けた者が当該加入電話を利用したと認めることはできないのであるから、Q2利用にかかる情報料及び回線使用料債務を被告に対して負担すべき理由はないものというべく、その不存在確認を求める同原告らの請求は理由がある。
他方、原告松谷については、前記のとおり、同原告又はその承諾を得た妻がQ2サービスを利用したものと認めるべきであるから、本来は、Q2利用にかかる情報料及び回線使用料債務を被告に対して負担すべきものであるが、被告は、情報料については、本訴において請求権がある旨の主張はしないとするから、結局、情報料についての債務不存在確認を求める同原告の請求は理由があり、回線使用料についての債務不存在確認を求める同原告の請求は理由がない(なお、乙七九、八〇、一一三によれば、同原告の加入電話から一覧表1及び2の同原告欄記載のQ2通話料に対応するQ2サービスが利用されたこと、及び右Q2通話料に係る情報料と回線使用料の内訳が一覧表2の同原告欄のQ2通話料内訳記載のとおりであることが認められる。)。
四 不当利得返還請求について〔原告高原、同嵯峨根、同麻生、同丹澤、同黒田、同小森、同佐原、同島村、同亀井、同和田、同吉田、同苅田、同沢野、同竹島、同伊藤、同藤岡、同近藤(道)関係〕
1 前記三のとおり、被告が原告松谷を除く原告らに対して、Q2通話料を請求することは許されないのであるから、別紙請求金目録記載の各原告については、既に支払済みのダイヤルQ2の利用にかかるQ2通話料は被告の不当利得に当たる。
2 被告の善意
ところで、右各原告は、被告が悪意の受益者に当たる旨主張するが、被告が右各原告からQ2通話料を受領した当時は、右通話料について約款一六二条に基づく回収代行権限があると信じて、制度を運用していたものであり、(乙一、二八)、右誤信に当然に疑問を差し挾むべきであるというような状況が生じていたとは未だ認めがたく、また、当時、右各原告が利用したとされていたQ2サービスの真の利用者について、被告が明確な判断を下すことは困難であったとも考えられるから、被告が右Q2通話料の受領につき悪意であったということはできない。
3 被告における不当利得の現存
情報料については、前記認定のとおり、Q2のシステム上、被告が受け取った情報料は、歴月単位で、翌々月に業者に支払われることになっており(乙二八、八六、九三)、そのとおりの処理がなされなかったことを窺わせるような事情は見当たらないから、右原告らの情報料もすべて業者に支払済みであると認めるのが相当である。
他方、回線使用料については、被告が自らの債権として受領し、これを留保している(弁論の全趣旨)。
ところで、被告において、情報料と回線使用料を分計することができないとして、一覧表2において、回線使用料は、計算上、Q2通話料の少なくとも四一分の一を占めるとし、四一分の四〇を情報料と記載している分については、その主張に照らしても、被告が四一分の一を超える部分をすべて業者に支払っているとは考えられず、また、情報料と回線使用料の区別ができない以上、業者に支払われた情報料の額を具体的に特定することもできないことは明らかである上、最低限の情報料についての主張立証も存しないから、結局、これらについては情報料部分についての現存利益の不存在の証明はなく、情報料も含めてすべてのQ2通話料が現存しているものといわざるを得ない。
以上によれば、別紙請求金目録記載の各原告のうち原告島村、同和田、同伊藤、同藤岡、同近藤(道)を除く各原告については、支払済みのQ2通話料について、右のとおり厳密に情報料を特定することはできないから、その主張する既払Q2通話料全額の返還を認めるのが相当であり、他方、原告島村、同和田、同伊藤、同藤岡、同近藤(道)については、情報料を特定することができ、情報料部分については現存利益は存在しないというべきであるから、一覧表2記載のとおり現存する回線使用料相当額の返還のみを認めるのが相当である(なお、乙三三の一及び二、三五の一及び二、八八ないし九二、一一四、一一五、一一七、一一八によれば、右各原告のQ2通話料にかかる情報料と回線使用料の内訳は一覧表2の同原告のQ2通話料内訳記載のとおりであると認められる。)。
五 損害賠償請求について(原告小柳、同冨田関係)
右各原告は、Q2サービスをまったく利用していない(争いがない。)にもかかわらず、Q2通話料を請求され、債務不存在確認を求める訴えを提起せざるを得なかったとして、これにより被った財産的損害や精神的損害の賠償を請求する。
しかし、同原告らに対する被告の請求行為自体は、被告の債権が存在するという誤解に基づき被告の通常の料金請求手続の一環として行われたものであり(甲三五の一)、その態様においても、社会的な相当性を欠くものとして、不法行為を構成するとまで認めることはできず、さらに、被告において、その後本訴提起時までの間に、同原告らに請求したQ2通話料に係るQ2サービスの利用が被告従業員の不正使用であったことを認め、同原告らに対する通話料を訂正したのにもかかわらず、同原告らは、あえて被告が請求しないことを明らかにしたダイヤル通話料について、債務不存在確認訴訟を提起したものであるから、右訴え提起に要した費用が被告の不法行為によって生じた損害ということもできない。
第四 結論
よって、原告小柳、同冨田、同佐原、同苅田、同竹島、同近藤(道)、同松谷を除く原告らの各債務不存在確認請求及び原告高原、同嵯峨根、同麻生、同丹澤、同黒田、同小森、同佐原、同亀井、同吉田、同苅田、同沢野、同竹島の各不当利得返還請求はいずれも理由があるからこれを認容し、同松谷の債務不存在確認請求及び同島村、同和田、同伊藤、同藤岡、同近藤(道)の各不当利得返還請求については、いずれも主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないものとしてこれを棄却し、同小柳及び同冨田の各損害賠償請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとする。
(裁判長裁判官笠井昇 裁判官菅野雅之 裁判官渡邊正則)
別紙債権目録、請求金目録、ダイヤル通話料金一覧表1、2<省略>